1964年2月9日土曜日、その日を境にアメリカの若者たちの音楽に対する意識が一変した。テレビ番組で司会の Ed Sullivan が The Beatles を紹介したのだ。50年後の2014年、ポール・スタンレーはこう振り返っている。
「50年前、Ed Sullivan Show で The Beatles を観た。あの日を境に僕の人生は永遠に変わってしまったんだ。」
The Beatles に続き、イギリスから多くのアーティストがアメリカに押し寄せる。いわゆる “British Invasion” だ。この潮流の中、アメリカからも Bob Dylan や The Beach Boys といった才能豊かなアーティストたちが音楽業界でデビューを果たす。ここに、ロック・ミュージック60年の歴史が幕を開けたのだ。
KISS がデビューした1970年代初頭、音楽界ではグラム・ロックが台頭していた。音楽面だけでなく、ビジュアル面も重視するアーティストが現れ始めた時期だ。David Bowie は “Ziggy Stardust” で華麗なイメージを演出し、New York Dolls は80年代のパンクを先取りするようなレザーとレースを組み合わせた衣装で登場した。ステージ演出では Alice Cooper のショーが特筆すべきものだった。イギリスでは SLADE がキャッチーなメロディのロック・アンセムで人気を博していた。ショーの素晴らしさという点で、The Who は外せない。彼らのライブは圧倒的なパワーを誇り、ステージ上でのエネルギッシュさはまさにショーマンシップの極致だった。若いリスナーたちにとって、これらのアーティストは「日常を超越した存在」に思えたのだ。
そんな時代、アメリカ東海岸のニューヨークで、また新たな個性的なバンドが誕生する。そう、KISS だ。圧倒的なビジュアル・インパクト!徹底したショーマンシップ!4人それぞれが放つ個性的なキャラクター!それが KISS だ。彼らは、それまで人気を博したバンドの長所を吸収し、アメリカナイズし、さらに高みへと昇華させていった。”You Wanted The Best, You Got The Best, The Hottest Band in the world”—コンサート前に毎回観客と共に叫ぶこの言葉に、彼らの自信が表れている。
この KISS が、どのように誕生し、50年もの長きにわたり厳しい音楽業界を生き抜いてきたのか。共に振り返ってみよう。