【KISSTORY】1971-1972年

KISSTORY

ポールとジーンのバンド Rainbow は、1971年初めにライブを行っているが、他にも同じ Rainbow という名前のバンドがいることを知り、名前を Wicked Lester に変えている。

Wicked Lester は1971年4月23日と同年夏にライブを行っている。ある日ポールが務めていた喫煙具販売店(名をMiddle Earthといった)にElectric Lady Studios で働くロンという男が現れる。ポールは度々ロンに電話をし、自分たちのバンドを観て欲しい旨を秘書に伝えていた。しかし、ポールが連絡をしていたのは店に現れたロンとは違う人物だったのだ。人違いではあったものの、ポールからの熱心なリクエストに答えてロン・ジョンセンは、一度 Wicked Lester のスタジオを訪れる。そこで、Wicked Lester に何か光るものを見つけたロンは、彼らを Electric Lady Studios に招き、共にデモ・テープの作成を行ってくれた。彼らはこのデモ・テープを各レコード会社に送ったが、しばらくの間、あまり良い反応はなかった。しばらく後に Epic Record から、フル・アルバムの製作に費用を出してよいとの連絡が入る。ただし、その条件としてリード・ギタリストをスティーブンから別の者に変えることという条件を提示されてしまう。

彼らは渋々この条件を飲み、スティーブンはセッション・ギタリストのロン・リージャックに変更された。ロン・リージャックを迎えた Wicked Lester はレコーディングを開始する。デモ・テープに収録されていた曲もロン・リージャックのギターに置き換えられていった。十分な資金のない彼らは Electric Lady Studios の空き時間を利用せざるを得なかった。そのため、夕方の4時からよる9時までの間は使用を待たされるなどという日が続き、結局、アルバムが完成するまでに1年を要してしまった。ポールが振り返っている「やり過ぎちゃったんだよ。その週に流行った曲にシタールが使われていたら、“よし、僕たちもシタールを使おう”なんてやってたんだから。」

Wicked Lester のレコーディング期間中、彼らは楽器や機材一式を盗難されてしまう。そんな彼らを見かねて Electric Lady Studios のロン・ジョンセンは、セッション・ワークの仕事をしないかと持ちかけている。その仕事の中にリン・クリストファー(Lyn Christopher)のレコーディングへの参加があった。ジーンとポールの2人は、”CELEBRATE” と “WEDDIN” という2曲にバックコーラスとして参加した。彼らにとって初めてのメジャー・レーベルからリリースされたアルバムへの参加であり、クレジットには、Gene Simmons と Paul Stanley として記載されている。

その他にもトミー・ジェイムス(Tommy James)、ミスター・ジー・ウィズ(Mr. Gee Whiz)といったアーティストのセッションにも参加した。当時のポールとジーンはそれこそ Electric Lady Studios で生活をしているかのように入り浸っていた。そんな日々の中でレッド・ツェッペリン、ジェフ・ベック、ローリング・ストーンズ、マウンテン、スティービー・ワンダーなどがレコーディングやセッションをしている姿や音を扉の外から見ていたという。ポールが語っている「Wicked Lester から KISS になっても、Electric Lady Studios には良く出入りしていた。あそこは僕みたいな人間にはディズニー・ランドみたいなもんさ。それに多くのこともあそこで学ぶことができたんだ。」

1971年に製作に着手した Wicked Lester の1st アルバムのレコーディングが完成したのは1972年になってからだった。ジーンはその出来に満足してはいなかった「ポールと俺はその出来に満足はしなかった。曲は良かったんだが、サウンドがまるで西海岸のヒッピー・サウンドのようだった。スリー・ドッグ・ナイトかドゥービー・ブラザーズかって感じだった。エレクトリック過ぎたんだ。俺たちが望んでいたブリティッシュ・サウンドではなかった。方向性が定まっていなかったのが問題だった。完成イメージができてなかったんだ。”SHE” にはフルートまで使われているし、”LOVE HER ALL I CAN” はダンス・ミュージックのようだった。」

完成したテープは Epic Record に送られたが、担当者には認めてもらえず、翌日には契約も打ち切られることとなってしまう。この時に完成したテープは、後に “The Original Wicked Lester Sessions” という名のブートレッグとしてリリースされている。また、数曲は2001年に KISS がリリースした BOX SET にも収録された。)

The Original Wicked Lester Sessions 収録曲

  1. LOVE HER ALL I CAN (2:28) Stanley
  2. SWEET OPHELLIA (2:56) Barry Mann/Gerry Goffin
  3. KEEP ME WAITING  (3:04) Stanley
  4. SIMPLE TYPE (2:33) Simmons
  5. SHE (2:54) Coronel/Simmons
  6. TOO MANY MONDAYS (3:27) Barry Mann/Cynthia Weil
  7. WHAT HAPPENS IN THE DARKNESS (2:59) Tamy Lester Smith
  8. WHEN THE BELL RINGS (3:11) Austin Roberts/Christopher Welch
  9. MOLLY (aka “SOME OTHER GUY”) (2:23) Stanley
  10. WE WANT TO SHOUT IT OUT LOUD (2:04) The Hollies

この時の挫折から、ジーンとポールは、ヴィジュアル面と音楽的にもっと先を行くバンドを結成することを誓い合った。その頃、キーボーディストでジーンの友人だったブルック・オストランダーはバンドに将来はないと考え、バンドから離れていった。Wicked Lester の音楽スタイルは多用でフォークやポップの色合いが濃かった。ジーンとポールは、ロック色を強くすることに決め、Wicked Lester を解散し、新しいバンド結成の構想を始める。初めに取り組んだのはサウンド構想だった。ポールは語っている「新しいバンドでは、ギターを中心にしたかった。ヘビーなギターサウンドに歌は強いメロディとコーラスのハーモニーが欲しかった。僕がインスパイアされたのはハンブル・パイだった。スティーブ・マリオットのパフォーマンスを観て、あれを自分流にアレンジすることを考えた。音楽的にはビートルズの感受性にレッド・ツェッペリンやローリング・ストーンズやザ・フーのギター・サウンドを足したイメージだった。」ジーンが言う「そこにスレイドの要素も足す感じにしたかった。スレイドは、ギター2人とベースとドラムという構成だった。彼らの曲 “MAMA WEER ALL CRAZEE NOW” を聴けば一目瞭然だ。そして俺たちはヴィジュアル面を強く意識した。ザ・フーやジミ・ヘンドリックスのライブのことを語る時、みんなは、“彼らのライブを聴いたか?” とは言わない。ピート・タウンゼントがジャンプし、ギターを壊す姿を観て、“彼らのライブを観たか?”って言うんだ。そんな風さ。」ポール「極めてシンプルだよ。今まで自分たちが観たことないことをしたかったってだけさ。」

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